新しい食との出会いを割烹で。姉弟で切り盛りする「モダン割烹 一の糸」谷奥 信太郎さんと女将

新しい食との出会いを割烹で。姉弟で切り盛りする「モダン割烹 一の糸」谷奥 信太郎さんと女将

 

 

常磐線北小金駅から地元情緒あふれる道を進むと、目の前に現れる本土寺へと続く参道。松と杉からなる並木を少し進むと、シックな外観の「モダン割烹 一の糸」が現れます。

しとしとと秋雨の降る日に訪れると、その冷たい空気が和らぐような優しい雰囲気のお二人が出迎えてくれました。

 

職人らしい落ち着いた佇まいの店主 谷奥 信太郎(以下、谷奥)さんと大きな笑顔が素敵な女将さん。ご姉弟のお二人の間に流れる、お互いへの信頼感が作り出す優しい空気が印象的です。そんなお二人に、お店を始められたきっかけや、料理へのこだわりなどをお伺いしました。

 
今の女将業を始めるまでは全く別のお仕事をされていた女将さん。「忙しい時も一晩眠れば大丈夫なんです。」と楽しそうにお話いただきましたよ。

 

 

お客様とのご縁を大切に

 

——「モダン割烹 一の糸」を始めたきっかけを教えて下さい。

 

女将
「一の糸」は、三味線の三本の糸のうち、一番太い糸のことを言います。三味線の一の糸は滅多に切れることがないから、ご縁が切れないように、と「一の糸」という名前をつけました。また、私が有吉佐和子の小説が好きなのもありますね。

 

弟(谷奥)は15歳から和食の修行をしていて、親の意向もありそろそろ自分のお店を出そうかと考えていたんです。それまで私はケアマネージャーの仕事をしていたのですが、定年を機に一緒にお店を出そうということで始めました。
女将業はケアマネージャーとは全然違う仕事ですが、人と接するのが好きなので楽しいですよ。

 

姉である女将 榎園さんと店主の谷奥 信太郎さん

 

谷奥
15歳からずっと柏や都内の割烹で修行していました。和食以外の料理への道は全然考えていなかったですね。

 

割烹というのは、カウンターでお客様と対峙して作ることがそもそもの基準です。お客様との会話の中で「何が食べたいか」「今はどんな気分か」などを汲み取って料理を作っていくので、なかなか難しいんですよ。私自身その割烹での経験は、手さばきなども含めとても良い修行になりました。

 

今まで板前仕事を大変だと思ったことはないですね。今もずっと楽しいです。でも、27歳で早くに料理長になり、周りが年上ばかりだったので、マネージメントの部分では苦労しましたね。

 

特別なことをせず、自信のある料理を丁寧に

 

——お店を開くにあたり、どうしてこの場所を選んだのですか?

 

谷奥
別のお店を借りるつもりでしたが、たまたま今のお店と出会ってピンときたんです。そこからすぐにこの物件について知り合いに聞いて、大家さんに「自分にこのお店をやらせて欲しい。」と直談判しました。その後、一日二日くらいでここでお店を始めることが決まりましたね。

 

 

女将
一の糸からほど近くの本土寺さんは、「あじさい寺」として、紫陽花や紅葉の季節にはたくさんのお客様がいらっしゃるんですよ。でも、その時期だからといって特別なメニューは出さず、自分たちの自信のある料理を普段と変わらずご用意しています。
紫陽花の時期は予約を取らないお店が多いのですが、一の糸は普段来ていただいているお客様が一番大切と考えていますので、普段と変わらず予約を受け付けています。なので、開店前から予約で満席なんてこともあるんですよ。
忙しい時期だからとおざなりにしてしまうと、普段から来ていただいているお客様を残念な気持ちにさせてしまうと思うんです。

 

谷奥
その通りで、忙しい時期に忙しいからと手を抜いてしまうと、お客様はそれをお分かりになると思うんですよ。だから、いつも今日一番いいものを、と思ってやっています。

 

女将
わざわざ一の糸に来てくださるお客様を大切に、また来たいねと思っていただいたり、若い方でもいつかはこういうお店に来たいと思っていただくことが大事だと思っています。
最近では若い方でもお食い初めなど、特別な時に使っていただくことも多いですね。来ていただいたお客様には、「感動した」とか嬉しいお言葉をいただくことも多いんですよ。また、仕出しをした時にはお礼のお手紙をいただくこともあります。お客様のそういうお心遣いがとても嬉しいです。

 

お客様のご要望にお応え続けるのは大変ですが、一つ一つ丁寧にお受けしていくことが大切ですよね。何事も積み重ねです。その気持ちはブレずに、でもちょっと体力的に追いつかなくなって来たりしますけどね。

 

お客様の喜んでくれることを考えて生まれたおもてなし

 

ーー「一の糸」さんではお箸の袋を差し上げるおもてなしが人気だとお伺いしました。

 

女将
最初は外国の方の結婚式への仕出しを承ったことが始まりです。野外で披露宴を行われるとのことで、「野外では埃も立つし、お箸を袋に入れた方がいいな」と思い、おしぼりとお箸と楊枝の3点セットを作りました。その時に外国の方だから日本らしいものを喜んでくださるかなと思って、楊枝入れのための人形を合わせて作ったんです。そうしたら思っていたより喜んでくださって、じゃあお店の方でもお客様に楽しんでもらおうと始めました。

店頭では一膳と二膳入りで販売もしています。ちょっとしたお土産にも喜ばれますよ。
お店で食べてくださった方には、お箸の袋をお渡ししています。檜のお箸と一緒にほとんどのお客様はお持ち帰りになられますね。

 

楊枝入れの人形は全て女将さんの手作り

 

お箸だけでなく、私たちにできることで色々とやっています。例えば、還暦の方のお祝いなどで赤いちゃんちゃんこを着るじゃないですか。でも、着たくないという方もいらっしゃると思うので、お酒のボトルを入れてくださった方にはボトルにちゃんちゃんこを着せてお出しすることもあります。

 

 

また、お顔合わせのお食事の時にシャンパンを入れてくださった方には、記念にそのまま持ち帰って下さいね、という思いを込めて、紋付袴と花嫁さん用の服をボトルに着せてお出ししようと計画中です。

 

このボトル用の服ができたきっかけは、お得意様にお酒をお出しする時に作ったことが始まりです。ボトルキープ用のネームプレートではなく、その方だけのオリジナルのボトル用の服を着せてお出ししています。そうすると食事の場も華やぎますよね。

 

丁寧に作られた獅子のボトル用の服ももちろん女将さんの手作り

 

昔から人形作りをしたり、色々と作ることが大好きだったので、全部私のアイディアで手作りしています。その作っている時間が癒しのひと時でもあるんです。

 

会席料理は「食の出会いの場」

 

——料理へのこだわりを教えてください。

 

女将
一の糸は、三味線にまつわる名前のお店なので、メニュー名も弁慶や助六、藤娘など、歌舞伎にちなんだ名前をつけています。私は踊りをずっと続けていたこともあり、馴染みがあるんです。昔は踊りを教えていたりもしました。

 

谷奥
食材の仕入れは毎日市場に行って、実際に見ていいなと思ったものを仕入れて当日のメニューを決めています。メニューは常に変わるので、HPの写真の料理そのものをイメージしてご来店いただくとちょっと困っちゃうこともありますね。でも、写真より必ずいいものをお出ししています。

 

割烹のカウンターで料理を提供していたことが長かったので、お客様との会話の中から料理を作っていくことが板についているんです。今でも、「この会席をご注文いただいたお客様はカップルの方なのか、ご家族連れなのか、前回はいつご来店いただいているのか」などで料理を変えたりしています。
そのためにはメニューを予め決めてしまうと、一週間前にいらっしゃったお客様に同じものを出してしまう恐れがあるんです。なのでメニューはあまり決めていません。会席料理では、お客様に一つでも新しい食との出会いを発見していただければと思っています。

 

 

地元に根付いて老若男女から愛されるお店に

 

——お客様へのメッセージを教えてください。

 

女将
もっと若い方にも誕生日とか記念日などの時にでも、気軽に来て欲しいなと思いますね。
普段は外食をする時にメニューを見て料理をご注文されると思うのですが、会席料理というのは食との出会いの場なんです。メニューにないもの、普段召し上がらないようなものをお出ししています。その一品一品を楽しみながら、召し上がっていただきたいです。苦手な食べ物も、違う出会い方をすると美味しく楽しめたりもしますよ。そうすると食が広がりますよね。

 

最近では、結婚記念日やお食い初めなどでご利用いただくことも増えています。一の糸は個室も多いので、お子様連れの方も多いですね。気軽に来れるお店と考えていただけているのかなと思います。お顔合わせでご利用くださったお客様が、子供ができたんですとまたご来店くださったりと、嬉しいこともありますよ。

 

——松戸の魅力を教えてください。

 

女将
小学校中学校と松戸で過ごしました。今は柏に住んでいますが、松戸にお店を持つことになり、松戸にはご縁があるのかなと思います。最初からこんなに大きなお店を持つ予定はなかったんですけどね。

 

一の糸の周りには本土寺さんだったり、東漸寺さんだったり歴史的な場所がたくさんあるんです。お散歩をするにはすごくいい場所ですよ。東漸寺さんでは、毎月フリーマーケットや骨董市なども開催されています。

 

今後は、松戸市が「都内は近いけど都内まで行く必要ないじゃない」という街づくりができたらいいですよね。

 

 

 

▶ モダン割烹 一の糸
和食をベースにオリジナリティを生かした懐石料理が特徴のお店。一階にはテーブル席、二階には個室と大広間が用意され、ランチから法事・慶事まで幅広く利用できます。
「お客様をドキドキさせるような、そしてお客様に新しい発見をしてもらえるような料理を提供したい」

 

HP:http://m-ichinoito.jp/
住所:〒270-0004 千葉県松戸市殿平賀68-1
最寄駅:常磐線 北小金駅 徒歩4分
営業時間:ランチ 11:00~15:00 (L.O.14:00)/ディナー 17:00~22:00 (L.O.21:00)
定休日:水曜日
TEL:047-701-5518